初来日!バンジャマン・ベルナイム テノール・コンサート
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初来日!バンジャマン・ベルナイム テノール・コンサート

いまやフランスを代表するテノールとして世界の主要歌劇場で活躍するバンジャマン・ベルナイムが初来日。2023/24シーズンではMETで《ロメオとジュリエット》、パリ・オペラ座《ウェルテル》でも題名役で出演しオペラファンを魅了したのは周知の通り。《ロメととジュリエット》はMETライブビューイングでも上映されその美声と端正な容姿はすでに紹介されている。それに、パリ五輪の閉会式でフォーレ「アポロの賛歌」を歌う姿も記憶に新しいところ。現在39歳まさに旬のリリックテノールが待望の初来日を果たし、二日間にわたりコンサートを行った。その二日目をリポート(1/19 サントリーホール)。オーケストラはボルドー国立歌劇場、ジュネーブ室内管弦楽団などを振っているスイス出身の俊英マルク・ルロワ=カタラユー指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。

初日(1/14)の後に体調を崩したことがアナウンスされたが曲の変更もなく最後までしっかりと歌い通した。オーケストラ曲を交えた構成で。チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》より「序奏」とポロネーズ」、そして〈青春は過ぎ去り〉、ドニゼッテイ《ドン・パスクワーレ》序曲、《愛の妙薬》より〈人知れぬ涙〉、ヴェルディ《運命の力》序曲、《シモン・ボッカネグラ》より〈ああ、地獄だ、ここにアメーリアが~慈悲深い天よ〉、マスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》間奏曲、プッチーニ《トスカ》より〈妙なる調和》。ここまでが前半でイタリアオペラの名アリアがメイン。同郷のアラーニャの官能、イタリアのグリゴーロの熱っぽさとは違うダンディといえばいいのか現代的でスタイリッシュな歌。これが舞台だと役への感情移入もありまた違って映り響くのだろうな、と感じた。プッチーニなど肌理の細かい甘い声質が美しく、多くの人が全曲を聴きたい気持ちにかられたはず。

写真:長谷川聖徳
後半に得意のフランス・オペラのアリアを持ってきた。マスネ《ドン・キショット》より第5幕への間奏曲、ビゼー《真珠とり》より〈耳に残るは君の歌声〉(ナディールのロマンス)、グノー《ロメオとジュリエット》序曲、第2幕間奏曲、〈恋よ、恋よ!ああ、太陽よ昇れ〉、最後に再たびマスネ《ウェルテル》前奏曲、〈春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか〉という内容。徐々に調子も上がってきて、なめらかな発声になってきているのが分かる。さすが世界でひっぱりだこのテノールだけある。
曲目は前半含め、初日と若干異なるのだがこれだけフランス・オペラのアリアを入れてくるのは新鮮で、フランス・オペラの魅力に開眼した人もいたのではないかな、などと思った次第。白眉はなんと言っても《真珠採り》のナディールのロマンスで。やわらかな高音域を駆使して伝え恋する心情にぞくぞくした。ナマでベルナイムを聴くのはこれが初めてだが、現在はリリコながらすでにドラマティコの役も視野に入れているだろう。ホセやサムソン、またはヴェルディの初役に移行する前に(それはそれで楽しみだが)、今回のナディールやウェルテルといったデリカシー溢れる純な青年たちのアリアを聴きたいものだ。アンコールにはなんとブレルの「愛しかない時」。シャンソンも得意とのこと、いいねぇ。
(文:TS)