ジョナサン・ノットの指揮で東京交響楽団がホールの特性を生かした近代・現代の作品を披露
音楽監督ジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団の定期公演(11/9 サントリーホール)と「名曲全集」(11/10 ミューザ川崎シンフォニーホール)。ラヴェル「スペイン狂詩曲」とスイスの現代作曲家・ミカエル・ジャレル(1958~)のクラリネット協奏曲「パサージュ」(スイス・ロマンド管、トゥールーズ・キャピトル国立管、サンパウロ州立響、東京交響楽団の共同委嘱作)。
後半にデュリュフレのレクイエム(合唱:東響コーラス)というフランス系の近代・現代作品でまとめられた色彩豊かなプログラムで、ジャレル作品は当初予定されていたマルティン・フレストが急病により来日中止となったためマグヌス・ホルマンデルがソロを務めた。

日本初演となった「パサージュ Passajges 」というタイトルは“流れ”“通過”を表すフランス語。作曲者によれば「音楽の流動性と有機性を生かした」(解説の平野貴俊氏の訳)音楽で、まさにクラリネットのソロと大編成の管弦楽が織りなす音色とリズムの流れに中に身をゆだねることができた。楽譜を見ていないので詳細は避けるが、高音域のe音やh音が中心を形成するようで音の集積が時おりハーモニーを感じさせる心地よさをもたらし、1曲目のラヴェルとうまく繋がりをみせた。
急速なソロと鍵盤打楽器のユニゾンなどかなりハードなテクニックを要すると思われ、オーケストラのアンサンブルの精度の高さが際立った。久々に実演を聴いたデュリュフレの「レクイエム」では合唱の無理のない発声、オーケストラとオルガンとのバランスが絶妙。
ノットのコントロールが冴えていた。中島郁子(メゾソプラノ)と青山貴(バリトン)のしっとりとしたソロも出色。今年が没後100年のフォーレの「レクイエム」との関連性が指摘される通り、劇的な表現よりも和声のふくよかなな美しさとデリカシーを感じさせる20世紀の名作であることが示された。各ホールの特性上、初日では柔らかなサウンド、2日目はクリアーな音色感が際立った。
(文:T・S)