(C) Kiyonori Hasegawa
テノールのスターとして世界的に活躍するファン・ディエゴ・フローレスが来日し、オペラ・アリアばかりによるエキサイティングなコンサートを聴かせた。伴奏はイタリア出身の若手ミケーレ・スポッティ指揮の東京フィルハーモニー交響楽団(1/31 東京文化会館大ホール)。
モーツァルト、ロッシーニ、そしてヴェルディまで芸風の広さを見せつける
モーツアルト《皇帝ティートの慈悲》~ティートのアリア、ロッシーニ《ギョーム・テル》~第4幕アルセーヌのアリア、ヴェルディ《リゴレット》第1幕~マントヴァのバッラータ、同《仮面舞踏会⦆~第3幕リッカルドのロマンツァ、同《二人のフォスカリ》~第1幕ヤコポのカヴァティーナ、同《アッティラ》~第3幕フォレストのアリア、同《ルイザ・ミラー》~ロドルフォのアリアという意欲的な選曲が組まれ、現在のフローレスの芸風の広さをぞんぶんに披露(アリアの前後にはモーツァルト、ロッシーニ、ヴェルディの名序曲などが差しはさまれる構成)。
モーツァルトはフローレスにとって比較的新しいレパートリー。肩の力の抜けた柔らかなフレージングと高貴な表現が印象的でしっとりとした味わいを残した。ロッシーニでは、持前の高音と歯切れのよいアジリタは圧倒的で、世界屈指のベルカント歌手としての存在感を見せつけた。
後半のヴェルディになると気迫といっそうのドラマティックな情感が加わり、その熱量にギャラリーも興奮。各アリアのカヴァティーナとカバレッタの間に自然と拍手と歓声が沸き起こってしまうほど。フローレスの高音(高いB音より上の音すべて)の力強さと正確さはここでもフルに発揮され 、弓矢が遠方の標的の中心を射抜くようにビシバシと決めてくるのには驚くばかり。もちろんこうした超絶技巧のみがフローレスの凄さでなく、おだやかな情感のこもった甘い表現も聴きてをうっとりとさせる。
最後はギター弾き語りで観客のハート鷲掴み
それは実質上プログラムの第3部と言っていいアンコールで十二分に発揮された。ステージの椅子に座ってギター片手にCHABUCA GRANDA 「JOSE ANTONIO」、CARLOS GRADEL 「EL DIA QUE ME QUIERAS」、TOMAS MENDEZ 「CUCURRUCUCU PALOMA」の3曲の“弾き語り”でファンを熱狂させたあと、ドニゼッティ《愛の妙薬》よりネモリーノの〈人知れぬ涙〉とアグスティン・ララ「グラナダ」で場内の興奮は最高潮に達した。凄まじい拍手とスタンディングオベーション がフローレスの人気ぶりを表していた。(文:T・S)
※今後のフローレスの出演するコンサート
ファン・ディエゴ・フローレス&プリティ・イェンデ オペラ・デュオ コンサート
2月4日(日)15:00 東京文化会館
NBS日本舞台芸術振興会